質問 小学1年生のクラスで色弱の男の子がいます。ご両親は息子さんの色弱のことについてクラス全体に先生から説明して欲しいと希望しています。どのようにしたらよいでしょうか?

回答 養護の先生の勉強会で話をした後、北海道CUDOの栗田が相談を受けました。そのときの話を参考にしてみてください。

  • 小学1年生の理解できる言葉で色弱のことを説明するのは難しい。
  • 本人の性格によっては気にしたりする可能性もある。
  • ご両親と密に相談することは絶対条件。
  • クラス全体の雰囲気を冷静に判断できる担任の先生、学校全体の理解とサポートが必要。
  • 1年生から卒業までの継続的なフォローが必要。
  • 上級生になっていじめの対象になる可能性も考慮。

などの課題があることを説明しました。「一般的には4年生くらいまで待って、説明する方が子どもたちの誤解が少ないでしょう。ご両親とご相談の上ご判断下さい」と話しました。

何日か後に、養護の先生から電話があり「担任の先生に会って、説明して欲しい」とのこと。栗田は担任の先生にお会いし課題について再度説明しました。同時期にお母さんからも北海道CUDO理事長の谷越に連絡が入り、栗田と谷越が学校側と親御さん側から別々に相談を受ける形になりました。こんな時は全員が揃って話をするのが一番です。小学校に、ご両親、担任と養護の先生、教頭先生、谷越と栗田の7人が集合しました。結論としては養護の先生からクラスメイトに説明することになりました。ご両親も十分に息子さんのことを考えてその結論を受け入れました。先生方も様々なリスクを覚悟の上でその道を選択したのです。

下記は養護の先生がクラスの子どもたちに話した内容です。

この1年2組にも(そして世界中にも)、たくさんの仲間がいます。一人一人他の人とはちがうその人らしさがあります。たとえば、背の高い人・低い人、髪の長い人・短い人、肌の色や髪の色が違う人、目がよく見えるように眼鏡をかけている人、足が不自由で車椅子を使っている人……こういうその人らしさは、外から目で見てわかりますね。

見た目ではわからないその人らしさもあります。たとえば、好きな遊び。おにごっこが好きな人、お絵かきが大好きな人、ボール遊びが好きな人、絵本を読むのが好きな人…いろいろな人がいるね。また、好きな食べ物もそうだね。カレーライスが好きな人、お寿司が大好きな人、野菜が苦手な人もいれば大好きな人もいる、納豆なら毎日食べてもいいくらい大好き!っていう人もいるかもしれないね。色々な人がいるから楽しいし、いろいろなことを学び合える。み~んなちがって、み~んないいんだね。

好きな遊びや好きな食べ物だけではなく、からだにも、じつは目には見えないけれどそれぞれ(他の人とはちがう)その人らしさがあります。たとえば、耳の聞こえない人がいます。そういう人は手話といって手の言葉を使って気持ちを伝え合うことができます。目に見えないその人らしさも、わかり合うことで、困っている時には助け合って、楽しく安心して過ごすことができます。1年2組でも、それぞれのお友達のよさを大切にしながら、お互いに助け合ったり優しくしたりして毎日を過ごしています。

これから、とっても大切なお話をするので、ここからは静かに声を出さないで聞いてください。じつは、色の見え方についても、いろいろな人がいてその人らしさがあります。

色にはたくさんの種類がありますね。その中で、赤が目立つように見える人、青が目立つように見える人など、いろいろな見え方があります。たとえば、黒板に字を書くとき、どちらかといえば赤いチョークで書いた方がよく見える人が多いけれど、青いチョークで書いたほうがよく見えるという人もいます。どちらが、正しいとかまちがっている、どちらがいい悪いということではなく、生まれつきのその人らしさです。どちらの見え方にもすてきなところがあります。青で書いたほうがよく見えるという人も、世界中にいます。特別なことではありません。

みんなのクラスのお友達、I君も、赤よりも青がよく見えます。Iくんだけではなく、これからみんなが出会う人達の中には、必ずIくんと同じような見え方をする人がいます。Iくんの見え方について、みんなに知ってもらうことで、Iくんもみんなも今まで以上にわかりあって、困った時には助け合いながら、優しい気持ちで楽しく毎日を過ごしてほしいと願っています。ですから、みんなも真剣に聞いてください。

こちらの写真(食育のエネちゃん、ととっち、つっくんの写真)を見てください。みんながよく知っている緑のととっち、黄色のエネちゃん、赤のつっくんです。こちらが、普段Iくんが見ている色に近い写真です。赤よりも青がはっきり見えるIくんは、緑のととっちと赤のつっくんの色が似た色のように見えます。

このように、赤や緑が似たような色に見えることがあります。みんなと同じように見える色もあります。繰り返しお話しますが、このように見えることは特別なことではありません。生まれつきもっているその人らしさです。だから、これからIくんの見え方が変わってみんなと同じように見えるということはありません。Iさんと同じような見え方をする人が、世界中にいます。

外からは見えないからだの特徴も、みんなそれぞれ他の人とは違うところ、すてきなその人らしさを持っているんだね。今日こういうお話をしたのは、みんなが毎日優しい気持ちで友達を思いやって、楽しく過ごしてほしいからです。これから、みんなに3つのことを約束してもらいたいと思います。

  1. いろいろな人がいるのだから、自分と違うところがあってあたりまえ。不思議だなあと思っても、そのことについて本人や他の人にわざわざ話したり、『違うよ』『へんだよ』と言ったりしたら、言われた人はどんな気持ちがするだろう。悲しい思いをするね。だから、そういうことを言わないことは大切なことです。
  2. もし、Iくんが何か困っていたり、教えてほしいことがあれば、Iくんが自分から聞くので、その時は優しく教えてあげてください。
  3. 今日のお話をわかってくれたら、あとは今まで通り、いつもと変わらず過ごすことが、Iくんにとっても、みんなにとっても一番安心なことです。

もし、みんなの中でも、自分のからだのことで心配なこと、みんなにわかってほしいことがあったら、いつでも先生方にお話してくださいね。これからも、みんなが、お互いを大切にして優しい気持ちで、笑顔がいっぱいのすてきな1年2組でいてください。今日は、いっしょうけんめい聞いてくれてありがとう。

私はこの文を読み、ジーンと来て涙が出ました。きっとクラスのみんなのこころにも届いたことでしょう。今後ともI君へのフォローは続いていきますが、きっと前に進んでいると思います。

養護の先生たちのこと

ここ最近、色弱の人を取り巻く環境も変化しています。

特に2013年に眼科医会から文科省に「色覚検査の必要性」についての提言があり、文科省もそれに応えるように2014年4月各教育委員会・大学・専門学校に「色覚検査をできるだけ実施するように」との通知を出しています。平成15年度より児童生徒などの健康診断の必須項目から削除したことで、児童生徒等が自身の色覚の特性を知らないまま卒業・就職などを迎えてしまう実態。保護者に対して色覚の検査に関する基本的事項についての周知が十分に行われていないのではないかという眼科医会からの指摘に応え、健康診断にて本人・保護者の同意を得て個別に検査、指導を行う。教職員が、色覚に関する正確な知識を持ち、学習指導、進路指導において配慮する。保健調査に色覚に関する項目を新たに追加する。などが記載されています。

※学校保健安全法施行規則の一部改正等について(通知) 26文科ス第96号【4】の2『色覚の検査について』の項

この通知によって各学校の養護の先生方にプレッシャーがかかったのです。学校では13年間色覚検査をしてこなかったのですから、ノウハウが受け継がれていません。また、社会や教育の流れも変わっています。そこに文科省からの抽象的な通知が来たのです。具体的に何をしなさいとは書いてありません。担任の先生方は現場が忙しく、そこまで手が回らないようです。さまざまな対応が養護教諭に委ねられるということになりました。

2014年頃から養護教諭の勉強会に呼ばれる機会が増えました。皆さんとても熱心です。学校での配慮は? 掲示物の色の使い方は? チョークの使い方は? どのように検査をしたら? 精密検査はどこで? 本人・保護者への案内はどのように? 進路・就職の情報はどこに? どのように進路指導したら? などなど溜まっていた質問がたくさん出ます。そのようなときにCUD関連書籍をお役立ていただければ有り難いです。